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味噌が放射能に効くのは本当か、岡崎まで行って聞いてきた

2011年11月02日
福島第一原発が爆発して以降、「放射能に効くグッズ」や「放射能に効く食材」など、効果の疑わしいものが話題になったりしています。中でも「味噌」は、広島の原爆、チェルノブイリの原発事故で活躍したという話もあり、今回の福島原発事故後にもまた「味噌が放射能に効く」という噂が回っていたりします。

味噌の効果は本当なのでしょうか?

味噌と言えば八丁味噌…八丁味噌と言えば岡崎…かな?と思い、岡崎まで行って「味噌が放射能に効くのは本当か」、聞いてくることにしました。

神奈川から西へおよそ300km。たどり着いたのはここ。愛知県は岡崎市にある、合資会社八丁味噌のカクキューさんです。宮崎あおいさん主演のNHK朝ドラ「純情きらり」を見ていた人なら、少しなじみがあるかもしれません。


なぜ味噌の名前が「八丁味噌」という名前かというと、岡崎城から西へ向かって八丁(約870m)、矢作川と東海道が交差する八丁村で造られいたことに由来しています。徳川家康に代表される三河武士が兵糧として持ち歩いた、固くて色の黒い濃厚な豆味噌が八丁味噌です。「カクキュー八丁味噌」は、今からおよそ360年前の正保2年(1645年)に創業した、八丁味噌の老舗です。「宮内庁御用達」の文字が誇らしいですね。



昔ながらの蔵の面影と、教会のモダンな雰囲気が一体化したようなデザインです。事務所及び蔵は国の登録文化財に登録されています。



これが昔の看板です。「創業以降六百余年」と書かれていますが、今では1645年に創業したと説を改めているそうです。



昔のポスターです。レトロな感じがいいですね。



昔の作業場を再現した人形です。蒸し釜や仕込み桶などが展示されていて、仕込み風景と味噌造りの様子が一目で分かるようになっています。



それでは、いよいよ核心に迫ってみます。史料館の奥に重要な資料が残されているはずです。



ありました!「原爆・放射能と味噌」!
原爆・放射能と味噌

 長崎原爆の被爆者で、聖フランシスコ病院院長を務めた秋月辰一郎氏は昭和四十一年に「長崎原爆記」を出版した。秋月氏は、玄米飯に塩を付けて握り、濃い味噌汁を作り、毎食食べるという栄養論を述べ、食塩ミネラル治療法が原爆症に有効であると説いている。
 チェルノブイリ事故(昭和六十一年四月末)のあと、当社にヨーロッパからの注文が殺到、月平均二、三トンだった輸出量が同年六・七・八の三カ月には十四トンに達した。これは秋月氏の本の英語版が英国で以前に出版されていて、放射能被害を心配した人々が同書を求めて書店に押し掛け、そこから知識を得て味噌を買いに走ったためである。

チェルノブイリ原発事故の後に味噌の売上げが伸びたのは間違いないようです。現在ではどうなのか、カクキューの人に聞いてみたところ、「福島原発事故以降、問い合わせが増えている」とのことです。「味噌が放射能に効くのか」という問いに対しては、「“放射能に効く”と言ってしまったら、薬事法違反になってしまう」ので、「味噌が放射能に効くとは答えられない」とのことでした(最近でも、「薬事法違反で社長ら3人起訴 がん効能本巡り横浜地検」という事件がありましたからね…)。

そもそも、秋月氏の「長崎原爆記」には科学的な根拠が全くないまま、ヨーロッパで翻訳されてしまって、理論的な裏付けは何もないそうです。味噌の成分に抗ガン作用のある物質が含まれてはいるようですが、放射線に耐性ができるとか、そういったことはわからないようです。

他の味噌メーカーには、このような記述がありました。 味噌と放射線についての実験結果等が載っています。六甲みその注意書きがもっとも参考になると思います。
(注)
同研究所のレポートは確かに興味深いものではあるが
レポートの内容や動物実験の結果等をみて
即「味噌の効果」と結び付けるのには少し問題があるとのことです。
またレポートの中のマウスによる放射性ヨウ素とセシウムの動物実験は、
あくまでも数ある放射性物質の中の2種類に関する実験ですので、
皆様方には「味噌を食べたら放射性物質を除去できる」と
拡大解釈されませんようにお願いしておきます。
「味噌は放射能に効く」ではなく、「味噌を食べると放射線障害の何かに効果があるかもしれない」くらいの気持ちでとらえておくと良いのかもしれません。



さてさて、味噌と放射線の効果について聞いた後、蔵も見学させてもらいました。圧巻でした!



一度に1600貫(6トン)もの味噌を仕込む巨大な木桶です。古いものは天保年間から使い続けられています。



桶の上には重石が乗せられています。重さなんと3トン。石は八丁味噌にはなくてはならない重要な道具で、地震があっても崩れないように積まれています。



味噌蔵の天井。通気性などが計算されているそうです。蔵に入ると、八丁味噌の香りが匂っています。



八丁味噌は、大豆6トン、石3トンで約2年寝かせたものが出荷されます。完成するまでに2年かかるため、新規参入はなかなか難しいとのことです。



石の積み方が芸術的で、見ていて飽きません。



桶も年季が入っています。



木と木の隙間など、微妙な違いで味噌の出来具合が変わってしまうそうで、新しくてきれいな木桶を使えば良いというわけではないそうです。洗わず味噌が付いたまま外に天日干しして、使う時に洗うのだとか。



手作業で味噌を詰めていました。



岡崎は八丁味噌の本場です。「八丁味噌」に似たものに「赤出し味噌」があります。八丁味噌は、食品添加物は一切使用せず、加熱処理もせず、生きた自然食品です。八丁味噌は現在、「カクキュー」とすぐ近くの「まるや八丁味噌」の2軒のみで製造されています。もし他の店で八丁味噌を造っていたら、それは偽物です。一方、赤出し味噌は八丁味噌などの豆味噌と米味噌を合わせた、いわゆる調合味噌です。こちらはどこでも売っています。



ということで、八丁味噌と赤出し味噌のみそ汁を飲み比べしてみました。八丁味噌のみそ汁の方が味が深くて、少しツンとした感じでした。飲み比べてみると全然違いますね。



さらについでに、食事もしてみることにしました。



注文したのは、八丁味噌の味噌カレーライス!「カレーと味噌の絶妙なハーモニー」を期待して一口。「なにこれ…」。今まで味わったことのない組み合わせ。カレーのコクや辛さに負けないどころか、それに勝っている八丁味噌の強さ。味噌のツンとした匂いとしょっぱさが、今まで味わったことのない異様なカレーの味わいに感じました。そのままパクパクと食べていると、これが不思議なことに後をひきます。一口食べるごとに味噌とカレーのハーモニーをもっと味わいたくなって、クセになります。味噌だけにちょっとしょっぱかったのですが、思っていたよりも面白いカレーでした。



というわけで、味噌が放射能に効くのは本当か、岡崎まで行って聞いてきました。ついでに、八丁味噌についてもいろいろ学んできました。今回訪れたカクキューさんの八丁味噌が気になった人は、カクキューさんの「見学に関して」のページを読んで、見学に行ってみてください。