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サルがシャッターを押したら、写真の著作権は誰のものになるか

2014年08月08日 カメラ・写真
サル
(上の写真は、ZAPAの著作です)


以前、クロザルがカメラを持って自分で撮った写真が魅力的だと話題になりました。その時使われたカメラの持ち主が、現在は著作権を巡ってWikipediaで有名なウィキメディア財団と争っています。

このニュースを聞いた人たちの反応はさまざまです。ただ、写真の著作権については、「カメラマンがお金をかけて撮影環境をセッティングしたわけだから、著作権はカメラの持ち主ではないか」という反応が多いようです。

ここで、「写真はどのタイミングで誰に著作権が発生するのか」ということを考えてみます。

参考になるのは、日本の女性写真家であり、AKB48のヘビーローテーションのPV監督としても有名な蜷川実花さん。

蜷川さんが写真撮影をするときの様子(広告撮影現場)が、去年テレビ朝日の番組で取り上げられていました。

自分のイメージでは、どういう写真を撮るのか、すべて蜷川さんのイマジネーションで決めているのだと思っていました。極彩色で独特な世界観を持つ蜷川さんですから。でも実際の現場では、撮影の8割くらいをアシスタントの男性ディレクターが決めていました。カメラの調整や照明のセッティング、さらには、構図(縦か横か、撮影位置など)やレンズの選定まで。あらかじめディレクターが設定を決めて、それに対し最後に蜷川さんが微調整を施し、そして撮影していました(撮影後の色調整もディレクターの仕事)。

このような状況(撮影環境はほぼ他の人がセッティング)での撮影であっても、できあがった作品が蜷川さんのものであることには異論がないと思います。どのタイミングでシャッターを切るか、という最後の部分が蜷川さんであるため、著作権は蜷川さんのものであると考えるのが普通です。

言ってみれば、写真の場合は、「誰が意図を持って、そのタイミングでシャッターを押したか」が大事になります。すべての環境を他の人が用意したとしても、最終的にシャッターを押した人に著作権が発生すると考えるのが自然です。写真は、1/800秒などのごく短時間の瞬間を写し撮るため、撮影者の撮影タイミングがとても重要になります。

これを踏まえた上で、もう一度クロザルの件を考えてみます。

サルはカメラを手に入れた後、シャッターボタンを押すのを気に入り、そのうちセルフポートレート写真を撮った。
Macaca_nigra_self-portrait
写真は、File:Macaca nigra self-portrait (rotated and cropped).jpg - Wikimedia Commonsより


サルはシャッターを押すと写真が撮れることは知らなかったと思いますが、自分の意図でタイミング良くシャッターを押したことに間違いはありません。

こう考えてみると、サルに写真の著作権が発生しても何もおかしくありません。

ただ、アメリカの法律では、サルが著作権を持つことはできません。そのことから、写真自体がパブリックドメイン扱いされてしまいました。これは、カメラマンにとっては不幸なことだったかもしれません。


そしてこのニュースを聞いた日本人は、「タイマーで撮影した写真の著作権は?」「固定カメラで撮影された写真の著作権は?」「センサー自動感知の写真の著作権は?」という反応が出てきています。

これについては、「意図を持って撮ったかどうか」が重要になると思います。タイマー撮影の場合は、「何秒後に撮る」というカメラマンの意図がありますし、固定カメラも「その場所で撮る」という意図がありますし、自動感知の場合も「センサーが感知したら撮る」という意図があります。最後にカメラマンが設定をしてから、他の人(や動物)が触ってシャッタータイミングをずらしたわけでもありません。こういう条件で撮った写真は、カメラの持ち主に著作権が発生すると考えられます。

今回のサルの場合は、「サルがカメラを持って、サルの意図するタイミングと場所でシャッターを押した」という条件になっているため、カメラマンの意図を超えてしまっているような気がします。

したがって、できあがった写真はサルのものとして諦めてパブリック化し、そのサルがセルフポートレートを撮る一部始終を写真や動画で収め、そちらも含めて商売できれば良かったのではと思います。


なお、動画の場合は、静止画とはまた違う権利の発生の仕方になります。写真は「タイミング」が重要であるため、シャッターを押したカメラマンが一番偉いですが(被写体等の権利は除いて)、動画はそうではありません。「映画やテレビ番組で一番偉いのはカメラマン」とはあまり聞きません。偉いのは監督です。

上の蜷川さんの出演した番組では、蜷川さんがムービー撮影の監督もしていました。もちろんムービーカメラなんて蜷川さん自身では持っていません。監督として指示を出すだけです。「よーいスタート!」「はいカット〜」の合図と、細かい指示を出すだけです。写真と違って自分でカメラを持って撮影はしていませんが、「スタート」と「カット」の合図がリモコンの代わりみたいなものになっています。意図も撮影のタイミングも監督が握っているため、やはり動画で一番偉いのは監督だと思います。


ということで、今回クロザルが自分でシャッターを押した写真の著作権はクロザルにあり、動物に著作権は与えられないからパブリックドメインとなる、というウィキメディア財団の主張に理解もできますし、サルに権利がないならカメラの持ち主が著作権者だ、という主張も理解できます。あとは裁判所の判断によって変わると思います。