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シグマの歴史-なぜシグマは日本国内生産にこだわるのか-

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2011年01月27日 カテゴリ:カメラ・写真
昨年末みんぽすのモノフェローズイベントに参加し、レンズメーカーとして有名なシグマのプレゼンテーションを聞いてきました。シグマ山木社長ご本人による熱いプレゼンでした。



株式会社シグマは1961年に設立された会社で、すでに50年近い歴史を持った会社です。自分としては、これだけの歴史があれば「古くからある企業」というイメージを持ってしまいます。ところがこの業界では、1961年の設立では最後発グループになってしまうのだそうです。当時は50メーカーくらいがひしめき合っていたそうです。現在、独立のレンズメーカーとして残っているのは、シグマ、タムロン、コシナくらい。どれだけ生き残りが大変だったのかは、メーカー数の増減からもわかります。

では、なぜシグマはこの争いから生き残り、そして今も成長を続けているのか。


このレビューはWillVii株式会社が運営する国内最大級家電・ゲームレビューサイト「 みんぽす」のモノフェローズイベントに参加して書かれています。本レビュー掲載によるブロガーへの報酬の支払いは一切ありません。レビューの内容につきましてはみんぽすやメーカーからの関与なく完全に中立な立場で書いています。(唯一事実誤認があった場合のみ修正を行います)「モノフェローズ」に関する詳細はこちら。(WillViii株式会社みんぽす運営事務局) みんぽす

シグマの事業戦略

まずは、シグマの事業戦略から。
・自社ブランド中心の事業展開
・他社との差別化
・内製化
自社ブランド中心の事業展開をし、他社との差別化、内製化がポイントだそうです。自社ブランドを伸ばしていくことに注力し、今後もOEMはあまり増やさない方向だそうです。

その昔シグマを有名にしたのが、このテレコンバーター。Telemac 2x。

このテレコンバーターを取り付けると焦点距離が2倍になり、当時大ヒットしたそうです。特許を取るのを忘れていたらしく、他社も追随して似たようなテレコンバーターが増えていったそうで、このアイディアがどれだけ画期的だったかがわかります。

昔も今も、他社にはないレンズを開発できるのがシグマの強みです。

広角ズームのパイオニア

この日まで知りませんでしたが、シグマは広角ズームのパイオニアでもあるそうです。少しでも荷物を軽くしたい登山者に向けて、荷物を極限まで軽くするために、広角ズームレンズの開発にこだわっています。

シグマ 10-20mm F4-5.6 EX DC HSM」などはもっとF値の明るいレンズにできたのに、絞り開放での性能を上げるために、わざわざF値を落として発売したそうです。社長は発売後になって「なんで?明るい方がいいでしょ?」的なことを聞いたそうなのですが、「F値を落とした方が性能がいいんですよ、えへへ」的なことを技術者から答えられてしまったそうです(セリフ内容はイメージです。そのままの発言内容ではありません)。この辺りは、絞り開放の性能ばかりを求めてしまうユーザーにも問題があるのかもしれません。でも「10-20mm F4-5.6」は本当にとても良いレンズだそうです。

また、最新の広角ズームレンズ「シグマ 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM」は非常に性能がよく、これは2003年から同じ設計者が広角ズームレンズを担当しているからだそうです。いくらコンピュータを使ってレンズ設計をできる時代になったからとはいえ、設計者の技術力はなかなかお金で買うことは難しく、古くからレンズを作り続けているのは財産だと思いました。

余談ですが、山木社長は前玉の大きいレンズが好きだそうです。なんとなくシグマには前玉の大きいレンズが多いような気がしていたので、その謎が解けたように思いました。社長が好きだからと言って、そのまま発売されるレンズに反映されるほど簡単な世界ではないと思いますけどね。

シグマはなぜ他社との差別化をはかったレンズを開発できるのか

シグマと言えば、他社にない魅力的なレンズが魅力です。ではなぜシグマはそのような魅力的なレンズを開発できるのか。

それには、垂直統合型の工場に秘密があります。


シグマは、会津にレンズ生産工場を持ち、自社内でレンズの設計・開発・生産ができる体制になっています。自社開発、自社生産できるということは、つまり何が優れているのでしょうか。それは、「レンズ設計の自由度が高い」ことです。レンズの設計がどれだけ優れていても、レンズを生産できなくては意味がありません。もし工場を自社内に持っていなかったとしたら、依頼する工場側で「生産は無理」と言われてしまっておしまいです。工場もシグマ内にあるからこそ、他社では生産が無理と思われるようなレンズでも生産が可能となっています。これが結局、設計の自由度の高さにつながり、他社にはない魅力的なレンズを生み出す力となっています。

企画→生産が通ることで、設計者は自由にレンズ開発ができます。とは言っても、工場側に試作加工を頼んだときに、熟練技術者から「なんだこの設計は!」のような感じで文句を言われることもあり、開発者は少し怖かったりもするそうです。

二度の円高による会社存続のピンチ

シグマは過去二度、会社存続のピンチを経験しています。一度目が1995年、二度目が2008年です。これは何かというと、「円高」です。

為替レートからもわかるとおり、円高になっただけで、利益が20%〜25%吹っ飛んでいます。シグマは日本国内で生産して、海外に輸出して利益を得る企業ですから(市場は日本よりも海外の方が大きい)、円高になればその分だけ値下げしたのと同じ効果になってしまいます。

二度の円高で取ったシグマの対策は、
・1995年:高付加価値戦略
・2008年:最高品質の製品開発、モノ作り戦略
です。2008年の世界同時不況による歴史的な超円高により、他社は事業見直しでリストラや海外展開を加速させました。シグマは、「このままでは会社が潰れてしまうのではないか…」と悩んだそうです。悩んだ結果出した結論が、「海外に出ない」「リストラしない」原点回帰でした。

シグマの目指す最高品質の製品開発、モノ作り

2008年の円高に負けないため、シグマは原点回帰をしました。それは、
・最高品質の製品開発、モノ作り
です。他社と同じように海外展開することも可能な中、シグマが取った戦略は「良いものを作る」こと。そして、「世界最高の光学メーカー」になること。

理想論を語るだけなら簡単です。目標を立てたからには、それを遂行するための方針が必要となります。そのために、社内プロジェクトを作りました。
・設計企画の見直し
・製造品質規格の見直し
・ゴースト・フレア・シミュレーションプログラム
・合焦性改善の取り組み
・品質改善を主たる目的とした設備投資計画
・その他
徹底的な最高品質のための戦略です。「ここ数年シグマのレンズが劇的に良くなっている」と個人的に感じていたのですが、その理由はまさにこのプロジェクトが元になっていることがわかりました。数年でこれだけの成果が出ていますから、今後にもかなり期待できます。

なぜシグマのレンズは逆光にも強くなったのか

今回のイベントで、一つ聞いてみたいことがありました。それは、「なぜシグマのレンズは最近、逆光にも強くなったのか?」ということ。昔のレンズの設計やコーティングが手抜きだったのか、それとも最近技術力が上がったのか、原因を聞いてみたいと思っていました。

聞くまでもなく、プレゼン内でその理由を教えてもらうことができました。その理由とは、「ゴースト・フレア・シミュレーションプログラム」というもの。「シグマのレンズは逆光に弱い」という悪評を覆すために、レンズのゴースト・フレアだけを見る専任の技術者を3人配置したそうです。この人たちの手により、日々ゴーストとフレア対策が徹底的に取られています。

また、ゴースト・フレアと言っても単純に設計だけで改善できるわけではありません。設計上問題がなさそうでも、生産時に問題が出ることがあります。それも、開発段階の「削り」でのレンズ生産と、「金型」でのレンズでは性能が変わってくることがあります。なぜかと言えば、削りか金型かでエッジが変わってしまうためです。そのため、一度金型を作ってゴースト・フレアのテストをし、そこで問題があれば、もう一度金型を作り直して性能を上げるそうです。てっきり、コーティングだけデジタル向けの最新コーティングになれば簡単に逆光にも強くなるのかと思っていたら、全然違いました。コンマ数ミリのエッジによる変化も見逃さずに、ゴースト・フレア対策をしているのだそうです。

もしも、円高の時に海外生産に移っていたとしたら…。そこまで最高性能を追求することはできず、とにかく「安売り」でいくしか戦略は取れなくなっていたのではないかと思います。これからもぜひ日本国内で最高品質の製品を作っていってもらいたいです。

単焦点大口径ブーム

フィルムカメラからデジタルカメラへと移り、レンズもAFズームレンズばかりとなっていきました。そんな中、シグマは「単焦点大口径ブーム」を作り出しました。そのきっかけとなったのが、「30mm F1.4 EX DC/HSM」。

なぜこのレンズが売れたかというのは、実はニコンに問題があったと思っています。ニコンはカメラボディの小型化を目指し、下位モデルのカメラからボディ内AFモーターを抜きました。その結果、「せっかくカメラが小さくなったのに、明るく小さな単焦点レンズが使えない!」という不満が生まれました。ニコンの単焦点レンズは、レンズ内にモーターを内蔵していないレンズばかりで、せっかく写りの良い単焦点レンズを使おうと思っても使えない時期が続いていました。そんなときに発売されたのが、シグマの「30mm F1.4 EX DC/HSM」。「小ささ」という点では一歩足りませんでしたが、「明るい」という特徴はこのレンズ以外に選びようがありませんでした。その結果、このシグマの「30mm F1.4」が売れ、現在の単焦点大口径ブームに続いていると思われます(その後ニコンもAFモーターを内蔵したAF-S DX NIKKOR 35mm f/1.8Gを発売し大ヒットとなっています)。今ではもっと小さなミラーレス一眼がたくさん売れていますから、より小さくて明るい単焦点レンズが売れるようになってきています。ズームレンズ全盛になった後に現れた、突然の単焦点大口径ブームです。

シグマでは、「30mm F1.4」がヒットしたことに気をよくして、「50mm F1.4」の開発にチャレンジしました。ところが、「50mm F1.4」というスペックのレンズは、レンズメーカーのタブーです。「50mm F1.4」という標準レンズは、カメラメーカーだけが作って良いものであり、レンズメーカーが作って良いものではなかったそうです。

そこは発想の転換で、「シグマは一応カメラメーカー」だからということで、自社のカメラ用に「50mm F1.4」を作り、ついでだから他社マウントにも提供してごにょごにょ…ということで発売にこぎ着けたそうです。完成した「50mm F1.4 EX DG HSM」は、今までの標準レンズの常識を破るレンズの大きさと写りで、大変評判の良いレンズです。自分も買って持っています。素晴らしいレンズです。

で、「50mm F1.4 EX DG HSM」が発売され、「次はー?」という声で生まれたのが「85mm F1.4 EX DG HSM」。この前レビューしたレンズです(レビューのリンクはページ下部にあります)。これもなかなか良いレンズでした。だったら、「次は35mm F1.4 EX DG HSMだよね?」と言いたいところですが、次はどうなるのでしょうか。

レンズ設計技術者の財産

今回のイベントでお話を聞いていて、とても印象的だったのが、レンズ設計技術者は財産だということ。上で述べた広角ズームレンズもそうですし、去年お借りした「50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM」もそうです。このレンズの開発の場合、先代の「APO 50-500mm F4-6.3 EX DG/HSM」レンズから、「巨大な望遠ズームレンズに手ブレ補正を付ける」という無理難題を出されたものの、なんとか実現することができました。レビューにも書きましたが、性能も素晴らしいレンズです。

レンズによっては、設計は数ヶ月で完成することがあるそうです。設計は数ヶ月でも、構想は5年。先代のレンズから関わっているからこそ、新レンズにもその知識や経験が活かされ、新しいレンズの開発につながっています。これはお金で買うことのできない貴重な財産だと感じました。

また、他社に入社してしまうと、レンズ設計がしたくても、コピー機やステッパーの事業に割り振られてしまうかもしれません。シグマだと、レンズメーカーなので、レンズの設計ができて、レンズ好きにとっては良いメーカーだそうです。結果として、レンズやカメラの好きな人たちがシグマに集まり、技術者として成長しているみたいです。

シグマが国内生産にこだわる理由

ここまで読んでもらえたならばわかると思います。シグマが国内生産にこだわる理由は、「最高品質の製品開発、モノ作り」をするためです。最近では、クラス最高性能のレンズでないと、企画自体が通らなくなっています。その結果が近年のシグマレンズの高性能に結びついています。

せっかく国内生産、それも会津工場でのmade in Japanを貫いているならば、もっとそれを周知していった方が良いと思いました。「会津 on me」とか、何か適当にキャッチコピーでも作って、日本国内生産をアピールして、品質の高さを消費者にわかってもらえるようにした方が良いと思います。また、1961年に会社ができ、今年で設立50周年ですから、タムロンのマネをして、50周年記念サイトの開設と50周年記念レンズを発売したら良いのではないかと思います。「50」に引っかけて「50mm F1.4 EX DG HSM」のキャッシュバックキャンペーンをしたり、何かシグマらしい高性能なレンズを記念価格で安売りしたりするのも良いと思います。

というわけで、シグマの歴史プレゼンテーションを聞いたまとめでした。これからもシグマを応援しています。


あと、シグマSD1やDPシリーズの今後についても聞いてきましたので、それは次回のエントリに続きます。