違う、我々が欲しいのは電源をONにした瞬間起動するマシンだ。

超訳 (超こんなマシンが欲しいと思っている訳 の略)

最新のインテル「Core 2 Duo」プロセッサ、メモリ2GB、最新のマイクロソフトOS「Windows Vista」を搭載したPCを購入した。10万円以上かけて購入したこの新しいPCは、快適なウェブブラウジング環境を手に入れようと、大金をはたいて購入したものだ。だが、買ってきてセットアップしてみて、私の心はズタボロに切り裂かれることになった。

何よりも驚かなくてはいけなかったのは、その起動時間の遅さだ。Intel社が会社を挙げ、大金を注ぎ込んでできあがったデュアルコアCPUを搭載しているのに、Windowsの起動までに1分以上かかる。一体これはどういうジョークなのだろうか?一流のアメリカンジョークだというのだろうか。
なぜこれほどまでに起動時間が遅く、ユーザーをイライラさせる仕様に、誰も突っ込まないのか。誰も改善しようとしないのか。

「デスクトップアプリケーション」だって?そんなものは必要ない。動作しなくたって良い。デスクトップアプリケーションなんて、とっくに死んだのだ。世の中はとっくにウェブアプリケーションへと移行している。デスクトップアプリケーションが動作する必要性なんて全くないのだ。私のような一般人にとっては。
Windows XPでしか動かない、Windows Vistaでしか動かない、Mac OS Xでしか動かない、Linuxでしか動かない。インストールしないと動かない。インストールしても動かない。そんなデスクトップアプリケーションなんていらない。

PCで一番使う機能はウェブブラウザだ。むしろウェブブラウザしか使わない。メールは、GmailやYahoo!メールやhotmailなどのWebメールをウェブブラウザから利用すれば良い。メーラーをわざわざオフラインのデスクトップ上で動作させる必要なんて無い。
メモ帳が必要だって?そんなものはwikiやブログにでも書けば良いだろう。デスクの上に置いてある本物のメモ帳にペンで書いたって良い。スケジュール帳が必要?デジカメで撮った大切な写真が必要?そんなものも、全てウェブアプリケーションで済ませれば良い。Ajaxを利用した優秀なインターフェースと、どのPCからでも操作できる利便性に優れたウェブサービスは、デスクトップアプリケーションには存在しないだろう。音楽が聴きたい?そんなものはiPodに入れておけば良い。入りきらない音楽ファイルは、メモリーカードやDVD-Rにでも保存しておけば良い。

そう、デスクトップアプリケーションなんて必要ないのだ。ローカルのPCにファイルを保存する必要性さえ無い。つまり、重くて熱が籠もり耐久性の低いハードディスクさえもいらない。全く必要としていないデスクトップアプリケーションを動かすためだけに、1分以上もOSの起動を待たなくてはいけない世の中なんて、おかしすぎる。今ではもう時代遅れのデスクトップアプリケーションを動作させるために、高価なCPUと高価なOSを買わなくてはいけないのか?

違う、我々が欲しいのは電源をONにした瞬間起動するマシンだ。

これが昔の低速なCPUであれば、起動に1分以上かかったとしても文句は出なかっただろう。だが時代は変わったのだ。いや、そもそもCPUが低速でも起動が速いマシンなど、昔からいくらでも存在していた。今から24年以上前に発売された任天堂のファミリーコンピュータの起動時間は遅かったか?いいや、電源をONにした瞬間ゲームが立ち上がっただろう。誰も、電源をONにしてから待ち時間があるなど考えてもいなかった。ファミコンが発売されるもっと前、モバイル型でマルチスクリーンのゲーム機であるゲーム&ウォッチでさえ、起動は一瞬だった。

ところが、据え置き型ゲーム機のプラットフォームが任天堂のスーパーファミコンからソニーのプレイステーションに変わるな否や、急に待ち時間が発生した。電源をONにしてもゲームがすぐに始まらない。ロード時間は長い。ファミコンの快適さに慣れ、それが当たり前だと思っていた人たちは、辟易したことだろう。当然ゲーム離れも起きた。「CPUが進化して、本当にゲームは良くなったのか?」一部のゲームファンは憤慨した。ライトユーザーは離れた。それでもスーパーファミコンからプレイステーションへの移行という、総合的なグラフィックス性能の向上により、違うファンも獲得し、見かけ上はゲームユーザーが増えているように見えていた。大きな問題点に気付くこともなく、ゆっくりとこの業界は腐り始めていったのだ。

問題が顕著に表れ始めたのは、プレイステーションからプレイステーション2へと移行した後だ。「DVDが再生できる」という付加価値で、販売台数自体は伸びたが、肝心のゲームファンの獲得にはつながらなかった。いや、むしろゲーム離れは加速した。グラフィック性能向上によるゲームの進化が頭打ちとなり、残ったのは、起動の遅さ、ロード時間の長さだけだった。じわりじわりとゲームファン、特にライトユーザーが離れ、ゲーム業界自体が終わろうとしていた。

娯楽という性質上、待ち時間があるなんて耐えられない。そんな時に、この危機的状況を救う救世主が現れた。起動時間の問題を解決したのは、一体何だったのか?そう、それは現在世界中で大ブームを起こしている任天堂のニンテンドーDSだ。ライバルとしたのは、ソニーやマイクロソフトの起動時間が遅いゲーム機ではなかった。起動時間の遅さにうんざりとしていた「非ゲームユーザー」をターゲットにしていたのだ。ゲームに関心の無い層にアピールするには、もう一度原点に戻り、起動時間の早いゲーム機と優れたインターフェースが必要だった。満を持して登場したニンテンドーDSは、地球上、いや宇宙上の歴史を見ても、これまでにないほどの速さで普及していった。起動時間に数十秒もかかっていたら、こんな結果にはならなかっただろう。画面にタッチするだけで操作できる直感的なインターフェースがなかったら、こんな結果にはならなかっただろう。

「PCは20代〜40代のもので、他の層からは理解を得られていない」。そんなのは当たり前の事実だ。これだけ起動時間が遅く、快適な操作にほど遠いPCが全ての年代に受け入れられるわけがない。
「若者はPCよりもケータイを使う」。そんなのはもっと当たり前の事実だ。PCよりもケータイのインターフェースの方がはるかに優れている。電源をONすればすぐに起動する。iモードボタンやYahoo!ケータイボタンを押すだけで簡単にブラウザが起動する。マウスやキーボードの操作は入らない。必要なものはケータイのブラウザで探して、ダウンロードして、決済もできる。低発熱、低消費電力で地球にも優しい。

それに比べて、現在のPCはどうだ?起動までに1分以上待ち、高発熱で高消費電力で、デカくて、重くて、高い。なぜそんな仕様になっているのか。デスクトップアプリケーションを動かすためか?

違う、我々が欲しいのは電源をONにした瞬間起動するマシンだ。

高機能なOSなんていらない、起動時間の遅いOSなんていらない。デスクトップアプリケーションなんていらない。我々が欲しいのは、電源ボタンを押した瞬間、即座にウェブブラウザが起動するマシンだ。その他一切の機能はいらない。Firefoxと同等の機能のウェブブラウザだけが動くだけで良い。全ての作業はウェブブラウザを通じて完了させる。ホームページ閲覧もメール送受信も文章作成も動画閲覧も画像編集も音楽再生も、すべてウェブブラウザを通じて完了させる。その他一切の機能はいらない。

「軽くて持ち運びのできるモバイルノートPCを購入して、スリープモードで動作させればいいだろう」だって?ただインターネットを楽しむためだけに、また10万円以上も出さなくてはいけないのか?軽いと言ったって1kg近くある。500mlのペットボトル2本を常に持ち歩くなんて嫌だ。ディスプレイは外付けで良いから、本体を軽くして、起動時間を早くして欲しい。欲しいのは、電源をONにした瞬間ウェブブラウザが起動する、低発熱で低消費電力でコンパクトなマシンだ。USBポートとビデオ出力端子とメモリーカード差し込み口だけあれば良い。いつでも持ち歩くことができ、液晶ディスプレイにつなぐだけで動けば良いのだ。バッテリー駆動で無線LANに接続できれば、自由にインターネットできる。ウェブアプリケーションで作業ができる。

もうデスクトップアプリケーションは死んだのだ。全ての作業はウェブアプリケーションで完了させれば良い。そろそろ、そのための専用マシンを開発したって良いだろう。いつまでも古い技術に付き合っている必要はない。インストールやメンテナンスが必要なデスクトップアプリケーションを動かすためだけに、起動時間を犠牲にする必要はない。

我々が欲しいのは電源をONにした瞬間起動するマシンだ。

ホームページが閲覧できて、メールが送れて、ニコニコ動画が快適に見られるスペックを持った起動の早いマシンが欲しいのだ。デスクトップアプリケーションなんて動かなくても良い。コンパクトで低発熱、低消費電力で、電源をONにした瞬間起動する、速くて安いマシンが欲しいのだ。




この文章はフィクションです。