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来来亭はなぜフランチャイズシステムを導入しないのか

2013年07月14日


京都風醤油味の鶏ガラスープに、背脂をふんだんに浮かせるラーメンを作る「来来亭」。来来亭の店舗数は急速に増えていて、神奈川県内にもすでに9店舗がオープンしています。なぜ今ラーメンチェーンの一つである来来亭が急速に伸びているのか。それはある1つの制度にあります。



来来亭の豆田敏典社長著の「ラーメン屋成功論―100の法則より1つの制度」。この本の定価は1200円で、1200円分のクーポン券が付いています。実質無料なので、試しに店舗で買ってみました。なお、Amazonのレビューによると、使用期限が付いているみたいなので、ネットで買う場合には注意してください。自分が来来亭で買った本は、使用期限は無期限で、「うちの店が潰れるまで使えます」と副店長が説明してくれました。


「ラーメン屋成功論―100の法則より1つの制度」の前書きに、豆田社長のメッセージが書かれています。
少し乱暴な言い方ですが、経済の仕組みに関して言えば、世の中って大きく二つに分けられると思うんです。
それは、「ピンハネする側」と「ピンハネされる側」。
「ピンハネする側」とは、すなわち経営者サイドを意味します。
もちろん、ピンハネする側にもリスクやデメリットはあるわけです。

(中略)

男の仕事って、どんなに頑張ったところで、1日せいぜい18時間くらいです。それを1か月休まず毎日続けたとして、たとえば時給が1200円だとしても、月65万円弱ですよね。それも、18時間という長時間労働ですから、ド根性を出したところで1年間も続けられる人はそうそういません。

(中略)

創業わずか10年ちょっとで、来来亭がそうなれたのは、つきつめれば「たったひとつの制度」に要因があるんです。
「たったひとつの制度」とは何なのか、その制度こそが来来亭が伸びている一番の理由になっています。

来来亭の優れた仕組みののれん分け制度

テレビなどでも紹介されているので知っている人もいるかと思いますが、来来亭が誇る「制度」とは、優れた仕組みののれん分け制度のことです。



来来亭では、店長になると、月給50万円以上が保証されています(平社員は27万円くらいから)。ただ、この仕組みだと店長は年収700万円の枠を突破できません。そこで考え出されたのが、のれん分けによる「独立」制度です。ある程度の勤続年数をクリアしたら、店長にその店舗ごと売ってしまい、独立できるという制度です。

最短3年で独立

しかも独立までの期間の短さが圧倒的。なんと、入社からたった3年で独立できるシステムです。



入社3年以上、店長職2年以上経験した者で、他に何も問題がなければ独立できる仕組みです。独立とは、店長をしているお店の営業権、建物、内装、厨房機器、看板、備品など、一切を会社から買い取り、オーナーとなることです。独立してどこかに新規にお店を出すのではなく、今まで店長として働いてきたお店そのものを買い取り、独立します。独立しても看板はそのまま、来来亭です。

ロイヤリティの支払いはなし

しかもフランチャイズシステムではなく、独立なので、本部へロイヤリティを支払う必要がありません。

独立して買い取ったお店で儲ければ、儲けた分だけオーナーの懐に入ります。しかも、雇われ店長だった時代よりも、独立してオーナーとなってからの方が、たいてい売り上げが良くなるそうです。つまり、大事なのはモチベーションです。独立という仕組みがあるからこそ、来来亭全体の評判が良くなるということです。

数年で独立されたら、来来亭直営店が減る一方?

ここで気になることがあります。来来亭本部側として、売り上げが軌道に乗った店舗を、オープンからたった数年で売ってしまって良いのか、ということです。フランチャイズシステムであれば、売り上げの一部がだまっていても入ってきますが、来来亭の制度ではロイヤリティが入ってきません。

有能な店長が独立すればするほど、来来亭直営店が減っていってしまいます。つまり、本部の売り上げが減っていきます。ではどうするか。独立するお店が増えても気にならないくらい、もっと新規店を出す、という作戦がとられています。なかなかリスキーな作戦です。店長が順調に成長してしまうと、来来亭本部は、独立までの数年間しか利益を上げられない仕組みですから。

来来亭でのれん分け制度が始まってからの7年間で、独立オーナー数は計48人、店舗数は67人になります。この本が書かれた当時(2008年)は、まだ神奈川県に来来亭はありませんでしたが、今はもう9店舗もあります。この仕組みのおかげで、急速に来来亭が増えているというわけです。

来来亭のラーメンで絶対に抜けないもの

来来亭のラーメンそのものの方に話を移すと、来来亭のラーメンで一番大切なのは、情熱です。



100点満点は目指さずに、最高の90点を目指すスタイル、それが来来亭です。セントラルキッチン方式は採らず、毎日各店でスープを作っています。その理由は、オープンにしないと信頼を得られないから、です。スープがセントラル一括生産だったとしたら、肝心なところを本部に握られていて、「スープをこの値段で買え」と言われてしまったらおしまいです。苦労して独立してオーナーになったとしても、スープが買えなくなってはどうしようもありません。それでは信頼関係が築けません。

そうならないよう、スープはセントラルキッチンで作るのではなく、各店舗で毎日作り、5時間で廃棄するシステムになっています。廃棄が早く、勘に頼らないスープ作りのおかげで、味のばらつきが防ぎやすくなっているようです。また、店長から独立を目指す社員が多いことも品質の安定に一役買っています。品質が落ちてしまうことは、致命傷になりますから。独立という仕組みのおかげで、手抜きにならず、情熱を持ってスープを作るおかげで、品質向上にも役立っているようです。

楽してボロ儲けできるのか

来来亭の社員は、平社員約27万円(地方差あり)、副店長35万円、店長50万円以上保証です。さらには、入社から数年で独立して、自分のお店を持つことも可能です。店長や独立を目指す社員が続々と入社してきて、やがて副店長、店長となり、店長の異動はなく、そのお店で独立します。極めてモチベーションの高い社員が、情熱を持って働く場所、来来亭。良いことだらけのように見えます。売り上げも黒字で、全員がハッピー。これだけ聞くと、簡単に楽してボロ儲けできるようなシステムかと思ってしまいます。でも、実は全然違います。

楽にボロ儲けではなく、地道に労働です。働きすぎなくらいに。来来亭は、店長もシフト制で、早番、中抜け、遅番の三勤交代制です。早番は一人で対応し、スープ、餃子まき、チャーシュー炊きなどの仕込みを一人で担当します。責任感が問われます。

この本には体験談も載っていて、他のラーメン屋の店長をしていた人が、来来亭に入社して7か月で、体重72kgから52kgへと減ったというエピソードも載っています。妻から「人の生活じゃない」と言われたほどです。

来来亭の実労働時間は1日11時間!

一体、来来亭の社員は、どれだけ働くのか。



「実労働時間は、残業込みで11時間です」。

実労働時間が残業込みで11時間…ドヤ顔でこんなことを言われてしまうとちょっと…

残業込みで8〜11時間とかだったらまだわかります。でも、すでにシフトの段階で、たとえば早番なら早朝7時〜18時の勤務時間が組み込まれています。接客を重視する来来亭で、しっかりと休憩や食事時間が取れるのかもわかりません。休みは週1日でしょうか、それとも週2日でしょうか。かなりの激務です。労働基準法的にはどうなのでしょうか。

儲かる裏には、地道な労働…というか働きすぎ?の現実があるようです。飲食業界ではこれくらい当たり前、と言われてしまうかもしれませんが、自分だったらもっと自分の時間が欲しいと思ってしまいます。

来来亭は宗教

社長は、ブログにこんなことを書いています。
来来亭は宗教なんやから教祖様の言うことは聞きなさい!っていつも言ってるのにっ(笑)ちなみに魁力屋の社長は俺のこと『ゴッド!』って呼んでくれてるよ(笑)

来来亭ブログ 危機一髪( ´〜`;)

情熱を持った接客で、情熱入りのラーメンを提供してくれる来来亭。来来亭に入社してから人生観の変わった社員も多く、まるで宗教のように思われるかもしれません。実は社長自ら、「来来亭は宗教なんやから」と言っていたようです。

教祖様、これからもおいしいラーメン、よろしくお願いします。


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