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KAGEROUは、今年読んだ小説の中で一番面白かった!

2010年12月16日 読書
発売日に買った、水嶋ヒロ(齋藤智裕)の処女作「KAGEROU」。
読んでもみないで内容を評価するのはどうかと思い、一日で読んでみました。

はっきり言って、「KAGEROU」は今年読んだ小説の中で一番面白かったです!

世間(特にアマゾンレビュー)では酷評されたりしていますが、間違いなく「KAGEROU」は今年読んだ小説のベスト小説です!








今年読みきった小説は、「KAGEROU」一冊しかないんだけど。










「KAGEROU」発売前は、「自殺」や「生きること」を扱った重い小説なのかと思っていました。
実際読んでみると全然そんなことはなく、けっこう軽いノリでした。
人生に絶望した40歳の男性が、自殺を決意している割にはオヤジギャグを連発したり、意外と冷静だったり。
重そうなテーマを対象としているのにも関わらず、軽い感じに仕上げているのは、ある意味で齋藤智裕の才能なのかもしれない、と思ったりしました。

あまりネタバレにならないように冒頭のストーリーを書くと、主人公の40歳男性がビルから飛び降り自殺しようとしたところに、臓器を扱う裏の黒服(全日本ドナー・レシピエント協会)男性が現れ主人公の自殺を食い止め、自殺する代わりに臓器を売らないかと話を持ちかけ、主人公がそれに乗っていくというストーリーです。


この物語は、臓器を提供させる段階を踏んでいく中で、主人公の生への執着を高め、「やっぱり死なない、生きる」と更正させ、臓器提供は失敗するものの、元から自殺を止めることが目的の協会であった、という結末を想像したのですが、全然違いました。

KAGEROUは、世にも奇妙な物語にピッタリなような、笑ゥせぇるすまん風の雰囲気に似ているような、そんなストーリーだとも感じました。KAGEROUならぬ、FUKUZOU。




以下、完全にKAGEROUのネタバレストーリーです。





ネタバレが嫌な人は、絶対に読まないでください。
人生に絶望した40歳の男性(主人公ヤスオ)がビルから飛び降り自殺しようとする。

全日本ドナー・レシピエント協会の黒服(キョウヤ)が現れ、自殺を食い止める。

ヤスオ「イギリスならジンだな。イギリスジン、なんちゃって」

キョウヤは、自殺するくらいなら臓器を売らないか、とヤスオに話を持ちかける。

AB型の特別キャンペーン中で最高額で3080万円になる、と言われ、ヤスオは病院へ査定しに行く。

査定の結果、喫煙が響き、2370万4300円に。しかも、胃に小さなガンが見つかる。

脳だけは20歳前後の若さでストップしていたが、脳は売れない(伏線)。

靴を買いに行って、その場で薬を飲んで倒れる。偽装死。

身代わりの死体を置いて、病院を抜け出し、車に乗り込むと20歳の少女アカネがいた。

アカネは拡張型心筋症で、心臓のドナー提供が見つかり、車に乗っていた。

ヤスオとアカネは誕生日が同じで意気投合する。

手術室へ。

特にあらがうこともなく、ヤスオは臓器提供の手術を受け入れた。本来はここで死ぬはずだった。

手術から60日後に目が覚める。

全ての臓器を提供してすぐに死亡する予定だったが、手術予定者が先に死亡してしまったため、心臓だけを臓器提供し、人工心臓を付けたまま生きていた。麻酔の量が間違っていたのか、誤って60日後に目が覚めてしまった。

体から心臓だけなくなり、ヤスオは電気のつながった人工心臓がないと生きられない体に。

ベッドの角度を調整するハンドルと、人工心臓の手動ハンドルの形がたまたま同じで、自分で人工心臓のハンドルを回し続ければ、電気がなくても外を歩けることがわかり、病室を抜け出すことに。

アカネと出会う。

アカネの心臓手術はうまくいっていた。

アカネと二人で秘密基地に隠れる。アカネにハンドルを回してもらって、少し眠る。

全ド協のメンバーに見つかり、病室に連れ戻される。

今度こそ、最後の手術。

その時、突然キョウヤの脳内の動脈が破れ、脳の機能がストップした。

キョウヤが生き返る。

キョウヤがアカネのところに行き、ヤスオとアカネ二人しか知らない会話をする。アカネは目を丸くする。

キョウヤ「まさかマッカーサー、でまかせで負かせ」

アカネの心臓が動いていることを確認し、キョウヤ(誤植?)が涙する。

おしまい。

最後は脳を移植して誤植…なのか、それが狙いなのかはわかりません。物語のクライマックス、232ページにこんな感じで「キョウヤ」と上から貼られていました。
発売前に誤植と言われたりしていましたが、おそらく演出ではないかと。




KAGEROUを読んでみた感想はというと、今年読んだ小説の中で一番面白かったことは間違いなく、アマゾンのレビューのように酷評するほどひどくはありませんでした。
というか、けっこう面白かったです。
つまらない小説なら、途中で読むのをやめていますし。

文字も大きく余白も空いていて読みやすく、重いテーマを軽そうに扱う、という点は齋藤智裕の才能なのかもしれません。
40歳の中年主人公に、ところどころ寒いギャグで滑らせて重いテーマを軽くさせつつ、キョウヤの体に脳が入った後も、その寒いギャグでヤスオを認識させる、というテクニックでした。
水嶋ヒロ自身がまだ若いこと、読者層は女性ファンということを考えると、この主人公設定はどうかとも思います。
ただ、小説家として本当にやっていくのなら、こういう設定にチャレンジするのも悪くないのかな、と思いました。
これからも小説家として頑張ってもらいたいですね。

KAGEROUは、ものすごい面白くて人に勧めるような小説、ではないけれど、まぁ一応読んでも損はないかな、と思える作品でした。
昔読んだ「世界の中心で、愛をさけぶ」よりも面白かったし、今年のベスト小説です。




追記:KAGEROUのシールは演出ではなく誤植で確定

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