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[AIR解説本の裏話3]クリエイティブ・コモンズライセンスは導入できない?

2008年01月08日 執筆・掲載履歴
ZAPA執筆の「Adobe AIRプログラミング入門」。
[AIR解説本の裏話]シリーズ第3回目は、「クリエイティブ・コモンズライセンスは導入できない?」についてです。 執筆を依頼され、印税を計算し、執筆を決心した後の話になります。

先に結論を言ってしまえば、「Adobe AIRプログラミング入門」にクリエイティブ・コモンズライセンスを付けて発売することはできませんでした。なぜできなかったのか、その経緯とともに、ここに記しておきます。

過去ログ
[AIR解説本の裏話1]なぜAIR解説本を書くことになったのか
[AIR解説本の裏話2]印税ってどうなってるの?

Adobe AIRの魅力を伝えるために…

AIR解説本執筆を決心した理由のひとつに、「Adobe AIRの魅力を伝え、日本から世界にはばたくAIRアプリケーションを開発してもらいたい」という思いがありました。
「周りの人にAdobe AIRの魅力を伝えたい…!」
 ↓↓↓
「んっ、だったらもっと他の方法もあるのではないか?」
と、ふと思い付きました。日本でも書籍にクリエイティブ・コモンズライセンスを付けるという新しい試みがありました。
クリエイティブ・コモンズの使い勝手試してみては?
クリエイティブ・コモンズに賭けた「コンテンツの未来」
自分が執筆したAIR解説本に、クリエイティブ・コモンズライセンスを付けて発売することはできないだろうか?と思い付き、出版社と交渉することにしました。

クリエイティブ・コモンズライセンスについて

交渉話の前に、「クリエイティブ・コモンズライセンス」とは何か、について。
クリエイティブ・コモンズのライセンスは,完全な著作権保持と完全な著作権放棄の間の中間層を埋める役割を果たします.具体的には,コンテンツに対して著作権を保持しながら一定の自由を事前に許諾している事を,分かりやすく表示することでより自由な著作権ルールを実現し,より豊かな情報流通と文化・科学技術の発展をサポートします.
Creative Commons Japan - クリエイティブ・コモンズ・ジャパン - learn
関連サイト:
Creative Commons Japan - クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
クリエイティブ・コモンズ - Wikipedia
結城浩 「クリエイティブ・コモンズ 関連文書の日本語訳」
クリエイティブコモンズ | Web担当者Forum
詳しくは、Creative Commons Japan - クリエイティブ・コモンズ・ジャパン - FAQにFAQ形式で掲載されています。クリエイティブ・コモンズライセンスは、「表示」、「非営利」、「改変禁止」、「継承」の項目をそれぞれ設定し適用することができます。

たとえば、「表示-非営利-改変禁止」のクリエイティブ・コモンズライセンスを適用した場合…、
「非営利であれば、著作者の情報表示をすることで、作品をそのままの形で利用することが可能」
になります。
この条件で本にCCライセンスを適用した場合で考えれば、勉強会の資料として、本の内容をコピーして参加者に配ることも可能になる、ということです(この場合、「継承」は許されていませんので、コピーからコピーを作ることは禁止されます)。また、本の内容について一切の変更をしなければ、インターネット上にアップロードすることだって可能になります。

(なお、ここに書いたライセンス内容は大雑把な説明ですので、興味のある方は公式サイトでご確認ください)

CCライセンスを付けてもらうための交渉

「Adobe AIRの魅力を伝え、日本から世界にはばたくAIRアプリケーションを開発してもらいたい」という思いを達成するために、担当の編集者さんにCCライセンスを付けて発売することはできないかとお願いをしてみました。自分にとっては、CCライセンスを付けることで、どれくらい売り上げにどう響くかはわかっていませんでした。当然、CCライセンスを付けるには、何かしらの理由がいるわけで、その理由に以下の項目を選びました。
新しいプラットフォームの開発者の裾野を広げるために、CCライセンスを適用したい。
AIRの前身であるApolloの外国の解説書「AIR:Books:Apollo for Adobe Flex Developers Pocket Guide - Adobe Labs」は、CCライセンスが適用されて出版されている。
もともと発行数の少ない書籍なら、CCライセンス付加による悪影響も少ないのではないか?
日本ではまだ事例の少ない書籍のCCライセンスということで、逆に宣伝材料としても利用できるのではないか?
担当の編集者さんに伝え、その後、編集者さんよりも上の立場の人に掛け合ってもらい、1週間後に返事が来ました。
なかなか前例の少ないことですので、難しい状態です
ということでした。

他の出版社ではどうなのか?

CCライセンスを付けられなかったことが心残りだったため、他の出版社の方から三者的な目でアドバイスをもらえないか、お願いをしてみました。同様の書籍を発売する場合、CCライセンスを付けられるかどうかについてを。伺った方は、過去にGNUのマニュアル本を刊行したことがある方です(GNUのため、テキストファイルをフリーで公開しなければいけない条件になります)。その方からいただいたアドバイスは次のようなものでした。
CCライセンスを付けないのは、出版社としては、ごく普通の判断。
発行部数が少ないからといって、悪影響が少なくなるということはない。むしろ、発行部数が少なくなれば、それだけ1部売れるか売れないかをシビアに見ていくことになる。
すでに日本でもクリエイティブコモンズのライセンスで数冊の本が刊行されているが、ほとんど話題にはなっていない。たぶん宣伝にはならない。
日本でCCライセンスで出版されている本にも、公開されているのは紙媒体のみで、再利用可能なテキストやPDFの公開を出版社が拒否しているものが少なからずある。
結局、日本の出版社は再配布も再利用もしてもらいたくないのでは?
まさに正論で、こう言われてしまうと何も言い返せません。
CCライセンスを付けて発売して、その後どうなるのかのデータが自分にはなく、どれだけの影響(良い、悪い含めて)があるかを証明できません。また、「ZAPAという名前で本を出せば1万部売れるヒット作になりますよ」とか、そういう実績もありません。それよりも、印刷予定の初版2000部がどれだけ捌けるかもわからない状況です。
無名の著者がCCライセンスを付けて発売するのは、ほぼ不可能だということがわかりました。

個人的な思い

以前、ポケットはてなは著作権侵害ではないのだろうかを投稿したことがあります。本心は、侵害されて困っているとかそういうことではなく、便利になるのならそれで良いと思っていたりします。情報を共有するのは好きなタイプです。ただ、共有する上での線引きも大事で、トラブルが起きないよう、著者や関係者があらかじめライセンスを表記した上で利用できればと考えています。

今回は残念ながら、CCライセンスを付けて販売することはできませんでした。Adobe AIRの魅力を伝えるために執筆を決意したところもあるので、少し残念な結果となってしまいました。どうしても、「もっとオープンにして、新しい技術を吸収して、世界に発信していってもらいたい!」という技術者からの視点で見てしまうところがあるので、もどかしさは残ってしまうのですけれど。自分は、執筆者であると同時に技術者でもあります(あるいは、そのどちらでもないかもしれませんが)。個人的に、日本初の新しくて面白いアプリケーションが見たいのです。

著者も出版社も購入者も満足できるような、そういう形態が取れれば1番なのですが、現実はそう簡単ではなかったみたいです。



次回は、[AIR解説本の裏話4]本のタイトルについて(もう少しで大変なことに…!)に続きます。